「眼鏡をかけたキャッチャーは大成しない」
球界の迷信を見事に払拭した、古田敦也選手。

名捕手あるところに覇権あり。
知将・野村克也の口グセである。
 
1990年代以降、最強のキャッチャーは誰か。
18年間の現役生活でリーグ優勝5回、日本一4回、MVP2回、ベストナイン9回、ゴールデングラブ賞10回、首位打者1回。
また通算2097安打は、キャッチャーとしては野村に次ぐ史上2位である。
 
ほとんどのキャッチャーは人差し指を12時の方向に向け、ミットを立てて構えていた。
そしてヒジを支点にして車のワイパーのようにミットを動かした。
 
しかし古田は脇を開け、人差し指を2時の方向に向け、ミットを少し寝かせて構えた。
一昔前の野球教室でこんな構え方をした子供がいたら、真っ先に叱られただろう。
 
古田も立命館大時代には「構え方を変えろ!」とよく叱られた。
古田は「はい、はい」と返事だけして、自己流を貫きとおした。

「こっちほうが捕りやすいし、早めに動ける。
ピッチャーの評判もよかった。

ワイパー型の欠点はなにか。
古田は「低めのボールをきれいに捕れない」と指摘する。
「脇が締まると自分の前にきた低めのボールを捕りに行く時、ミットを下に持っていくしかない。
これを僕らは、網で虫を上からかぶせて捕るやり方に似ているので、“虫捕り”と呼ぶんです。
この捕り方はピッチャーが嫌がる。
審判がなかなかストライクにとってくれませんから。」
審判には低めのボールがより低く見えてしまうのだ。

しかし古田流の構え方であれば、ミットをボールよりも下の位置に置くことができる。
そこからめくり上げるように捕ると、低めのボールがきちんとストライクゾーンに入っているように見えるのだ。
 
もちろん、この捕り方にも欠点はある。
古田によれば「右バッターのインローのボールを捕るのに時間がかかる」という。
脇が開いている分、ミットは自在に動くが、右バッターのインローのボールに対してはミットをグルッと半周させなければならない。
これだと左ピッチャーの鋭く切れ込むスライダーや右ピッチャーのシンカー系のボールについていくことができない。
ここのボールに限っては、脇を締め、キャッチャーミットを立てて構えたほうが素早く対応できる。

捕球する際「ミットを動かすべきではない」というのが古田の考え方だ。
よくアマチュア野球を見ていると、極端にミットを動かすキャッチャーがいる。
ボール球をストライクに見せようとするためだ。
こうしたテクニックはプロではまず通用しない。
ミットを動かしただけでプロのキャッチャーは“ノー”です。
よく“アウトコースのボールはミットの内側で捕って寄せたらストライクに見える”と言う人もいますが、プロのアンパイアはまず騙されません。
 
では、ミットのどの位置で捕球すべきなのか?
「イメージとしては親指と人指し指の間くらいでしょう。
掌で捕ったらボールが落ちる。
逆にネットにかかるとボールが出てこなくなる。
ミットの親指と人差し指の間の皮が、へこんでくるようになればいいんじゃないでしょうか。」

次に捕球のコツ。
ミットを動かすことなく、際どいコースをストライクにみせるテクニックはあるのか?
先回りしてミットを構える。
あらかじめボールの軌道を読んでおいて、実際よりもちょっと下、あるいはちょっと外にミットを置いておく。
ボールを捕る時に体ごと動かしながらミットを戻す。
そうするとミットが流れることなく、バチッと止まって見える。」

続いて盗塁を刺すコツ。
単に地肩が強ければ盗塁を阻止できるほど、プロの世界は甘くない。
送球の前から既にランナーとの戦いは始まっているのだ。
まずは送球前の動作。
捕ったボールを右手に持ち替えて投げる一連の動作をワンモーションで処理しなければならない、と古田は言う。
「昔は“ミットにボールを当てて、右手に落として投げなさい”と教えられましたが、これでは遅くなる。
ミットごと一緒に持ってきて投げるフォームに入らないと間に合わない。
ちょうど両手で円を描くイメージです。
そのほうが前の肩も入って投げやすい」

捕球に関してもわざわざミットに当てるように捕る必要はない。
いつもと同じか、少し中(ネットの部分)に入れる程度で十分だと古田は説く。

送球に関しては、「正確に」「素早く」「強く」の3点を心がけなければならない。
「どんなに肩の強い人がいくら速いボールを投げたからと言っても、二塁ベースのはるか上だったら捕球からタッチするまでに時間がかかってしまう。
ノーバウンドだろうが、ワンバウンドだろうが、二塁までの時間は大して変わらないのだ。
ベースの上、30センチぐらいに球がいけば何とかなるのだと思うようにしよう。
何よりも正確さを優先すべきだ。
 
ボールを握る、人指し指と中指をボールの縫い目にきちんとかけて投げられるか否かがカギとなる。
「要はキャッチボールでも、必ず縫い目にかけて投げるクセをつけておくことが大切です。
当然ながらフォーシームの握りが一番いいボールがいく。
それをピッチャーの頭あたりを目がけてピュッと投げる。
基本的にセカンドベースは見ていない。
だいたい、あのへんという感覚で投げるんです。」
 
もしフォーシームの握りがつくれなかった場合、どうするのか。
これはもう運ですね。
“きた! こりゃいける”という感じになります。
二塁にビシューといいボールが投げられますよ。

しかし、そうじゃない場合もある。
“ウァー、入ってない”と思ったら、ちょっと上のほうに投げるんです。
すると縫い目にかかっていないので、ボールは伸びませんから、勝手に落ちていいところに行ってくれる。
他にも低めのボールを捕って、体勢が崩れたまま投げなきゃいけないこともある。
その時はちょっと左上を目がけて投げるんです。
そしたら、腕が下がっているので、勝手にシュート回転して、それなりのところへ行く。
後は“ショートの人、うまくやってください”という感じでしょうか。
仮にワンバウンドになっても、内野手がうまく処理してくれれば、アウトになりますから。」